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関係ないんですが、京極の新作って本屋で平積みされてるのを見つけると異常に興奮しますね。
平穏な本屋で「やった!今回も打撲武器!」って呟く青年男子。超怪しい。
以下長文をネタバレ避けで。ちなみに傑作です。そまは読んどけ。『巷説百物語』を読んでない人はまずそっちを読んでからこれを読むのをオススメします。
『巷説百物語』のエピローグ、でしょうか。
少なくとも私には、続編というより壮大なエピローグに思えました。
時は明治維新後。『巷説』の主人公、山岡百介も歳を取る。
『巷説』自体素晴らしい小説で、どのキャラクターたちも生き生きして好きだったのですが、個人的には綺麗に終わらせた物語だと認識していたのです。故に今作はちょっとビックリしました。
今回京極に対して本当に凄いなと思ったのは、自らの生み出した主人公を最期まできっちり面倒見たことですかね。いや、これ衝撃だったんですが、私はこういう小説を今まで読んだことがなかったのです。そりゃあ事故死とか「物語を盛り上げる為に殺される」((c)ミスチル)とかはあるんですけどね。なんていうんだろう。京極の愛情を感じた。キャラも浮かばれるってもんだ。
小説としての舞台装置も秀逸。若かりし頃の山岡百介にそっくりの怪異好き。怪異はすきだが怖がりの髭巡査。時代の変化から取り残されたかのような、でも決して悲観的ではない剣術屋。洋行帰りで理屈屋の旗本の息子。
そいつらが不思議な巷説にたいしてあれやこれやそれぞれの理屈をこねくり回した後、年老いた巷説好きの隠居のところに行って教えを請う。持ち込まれる話は隠居が少なからず関わった話ばかりで、隠居は真実を知ってるんだけども真実を隠したまま巡査を解決に導く。
こうやって筋を書いちゃうとつまらない様に見えるけども、落語と同じで何回読んでも面白い話だと思います。まず四人組の掛け合いが面白い。江戸から明治への変革とともに訪れたであろう文化の変革。それに伴って移り行く価値観の変化。そんな時代の四者四様の視点・価値観で一つの事件を解釈させる。
それをやったあとで、山岡百介が事件を解決に導いていくんですが、導いているのは百介の中の又一なんですよね。それを百介自身が自覚してて、尚且つ喜んでいる。在りし日の、自分が生きていた証を自分の中に発見して喜んでいる。
そういう、なんていうんだろう。ノスタルジーじゃなくて、憧憬ってんでもなくて。
自分が好きな自分の再発見っていうか。ちょっとだけ悲しいんだけどとても素敵だった。
うん、やっぱ京極好きだわ。人を一人描きつくすことができる。今回もシャッポ脱ぎました。
与次郎と小夜は結ばれたと自分の中で思ってます。百介とおぎんは悲しい別れだったから。
ちなみに京極堂シリーズに関連した名前を発見してほくそえんだ。